鐘つき聖堂の魔女
「あんな人…私は知らない……」
リーシャは俯いたまま、感情を捨て去ったような声でもう一度呟く。
ライルは今どんな顔をしているだろうか。驚いているだろうか、怒っているだろうか。
それとも、悲しんでいるだろうか…―――
こんな言葉、今までのライルとの生活を否定しているようで言いたくはなかった。
けれど、こんなにも大勢の前で魔女だとばれたとあれば、ライルに迷惑がかかる。
そればかりか、一緒に暮らしていることまで知られてしまっては、ライルまで皆から疎外される可能性だってある。
とすればリーシャがライルのために出来ることはただ一つ。初めからライルとは何の関係もなかったことにすることだった。
「知らないわけないだろ。こいつはさっきお前の名前をはっきり呼んでたんだぜ?」
「リーシャなんて名前の女の人なんてたくさんいるから間違えたんでしょう」
「へぇ、そうかい」
ロネガンは不満そうにそう受け流すと、唐突にリーシャの後頭部に指を差し入れ、黒髪を鷲掴みする。
「だったら、こいつによく見せてやれよ。お前の姿を!」
「リーシャ!」
ライルとジャンの声が重なる。何をされるか予想はついていたリーシャは痛みに耐えながらも髪ごと後ろに引かれる力に抵抗した。
「リーシャを放してくれ、と言ったんだが」
ライルが発した地を這うような低い声は有無を言わせないほどに強い口調だった。
「例えそのリーシャが俺の知らないリーシャであっても、この状況を見逃すわけにはいかない」