鐘つき聖堂の魔女
「ハッ!お前正気かよ。こいつは魔女だぞ?」
「魔女であってもだ」
帰ってきた力強い言葉にリーシャは胸が熱くなり、涙が込み上げそうだった。
しかし、魔女と知ってなお、助けてくれるのはライルの優しさゆえだ。そこには特別な感情などなく、助けてくれるのは何も自分が特別なわけではない。
一瞬でも喜んだ自分が恥ずかしい。リーシャは浮かれた心を無理やり押さえつけるように感情を押し殺した。
そして同時に、これ以上ライルに迷惑をかけるわけにはいかないと思った。
リーシャが杖を振りかざそうとした瞬間、ロネガンはリーシャの右腕を掴む。
「おっと、そうはさせないぜ」
ロネガンの力は強く、リーシャの白い腕が更に白くなるほどに力を込められた。
そして、ロネガンはリーシャの髪を掴んでいた手でポケットに入っていた消魔石を取り出す。
ポケットに入っていたのはやはり三つで、暫くの間魔法を防ぐことが出来るくらいには威力があると分かった。
消魔石に触れれば、もうこの場からの逃げ道を失うだろう。
しかし、どうすることもできないリーシャは近づいてくる消魔石から顔を反らし、目をギュッと瞑った。
「抵抗できないよう躾けてやる」
耳元でその言葉を聞いたリーシャが嫌悪に表情が歪み、ライルがロネガンを射殺す様な視線で射抜いた次の瞬間。
バチッ…――――
鈍い音とロネガンの苦痛の声がリーシャの耳に届いたかと思えば、ロネガンの拘束から逃れた。
恐る恐る目を開くと、ロネガンが右手を抑えながら蹲る。抑えている右手は消魔石を持っていた方の手だ。消魔石は石畳をコロコロと転げていき、あっという間に観客の渦に消えて行った。