鐘つき聖堂の魔女
◆ライルの葛藤とリーシャの想い
リーシャが飛び立った後、広場を逃げ惑っていた人々は落ち着きを取り戻した。
ほっと安堵した様子で自分たちの席に戻る者や、リーシャのことを噂しながら家路につく者もいた。
この様子では明日明後日にもリーシャが魔女だという噂が広まるだろう。
「クソ…逃がしたか」
それもこれも全てこの男のせいだ。リーシャとこの男との間に何があったかなどは分からないが、リーシャが魔女であることを知っていた様子だった。
ライルは静かな怒りを内に宿しながら、ロネガンを見下ろす。
『―――…この男を殺るのか?』
あどけない声がライルの頭に語りかける。鈴の鳴るような少女の声で抑揚なく語りかけた内容は物騒なものだった。
ライルは足元にある影に視線を向ければ、影がゆらりと揺れて少女の顔が浮んだ。
鼻の上までのぞかせた少女の髪は影に溶け込むような黒で、ライルを見上げる瞳は闇に光る猫の目のように金色をしていた。
『今は殺らない』
『そんなに殺気立ってるのにか?お前が殺気をだだ漏れにさせるなど珍しい。あの魔女に余程肩入れしていると見える。似た境遇に同情でもしたか?』
見透かしたようなゼイアスの言葉にライルはハッと我に返り、罰の悪そうに舌を打った。
『余計なことは勘ぐらなくていい。それで、例のものはあったか?』
『お前の予想通りだったぞ。ポケットに入れておいた』
ライルがポケットに手を入れると指先に何かがコツンと当たる感覚がした。