鐘つき聖堂の魔女
「裏路地じゃなくてせめて表通りで倒れていたら誰か助けてくれたかもしれなかった」
「ドルネイは旅人を受け入れるだけの余裕なんてないから。道端で倒れていても誰も助けはしないわ。運が良ければ貴族が何か恵んでくれるかもしれないけど、それは女子供だけ。貴方のそのなりだったら放っておくでしょうね」
「けど君は助けてくれた」
ライルは綺麗な笑みを浮かべて、女が喜びそうな甘い台詞をサラリと口にする。
「ッ…私は一人暮らしだし、一日くらいだったら大丈夫だから」
「泊めてもらった身で言うのもなんだが、簡単に男を家に入れてはいけないよ。君はひとり暮らしみたいだし、少しは警戒しなかった?」
「それは大丈夫。いざとなったら何とかなるし」
「すごい自信だね」
「べ、別に自信がある訳じゃない。病み上がりの人に負ける気しないだけ」
実際のところ、リーシャは外見こそ小柄で華奢だが、魔法さえ使えばそこらを歩いている人間よりも力関係で優位に立つことができる。
といってもそれは最終手段であり、力を使わないことが一番であった。
「それに貴方は人を襲えるような人には見えない…と思う」
初対面ながらライルはどこか怪しくも、人に害をなす存在ではないとリーシャは判断した。
その判断に驚いたのはライルで、私に向ける目が面白いものを見るようなものに変わる。
「いいの?自分の直感を信じて」
「今襲われてないということは私の直感が当たっていたということでしょう?襲うに足りない魅力だとは思いますけど」
「そんなことはないよ。君はとても可愛らしい」
「なっ!そんなことさらっと言わないでください!」
さっき目覚めたばかりのくせに、と心の中では冷めた言葉が浮かぶのに、リーシャは顔を真っ赤にして反応した。
ライルは顔を赤くして反応するリーシャにクスクスと笑いながら「ごめん、ごめん」と、心のこもっていない謝罪を口にする。