鐘つき聖堂の魔女
「あの女とは関わらないことだ。でなけりゃお前までこの街での居場所がなくなるぜ?」
「リーシャも俺もこの街からは出ていかない。自分の保身に走り、恋人を捨てたお前と一緒にするな」
「なに?」
ライルは勝手に動いた自分の口を恨んだ。聞き流して黙って去っていれば何事もなくこの場を立ち去れたというのに。
今の一言でロネガンのちっぽけな自尊心を損ねたらしい。
「これ以上リーシャには関わらないことだ。街で会っても余計な接触を避けろ。一言も口をきくな。違えた時は……」
ライルは一呼吸置き、改めてロネガンを見据える。
「もうこの街をその阿保面で歩けると思うな」
「ッ!」
その眼は闇をかける獣が獲物を狩るときのように恐ろしく静かで研ぎ澄まされた脅威があった。
剣呑な光を放つライルの瞳にゾクリと身の毛がよだったのはロネガンだけではない。その場にいた全てのものが悟った。“この男は只者ではない”と。
幾つもの戦を制してきたかのような獰猛な眼と相手を飲み込まんばかりの圧倒的な雰囲気。ロネガンの手下、そして散らばりかけていた人々までの視線を引き付ける不思議な力。
ライルが広場から立ち去るまでの数分間、誰もが声を発せず縛られたように動けなかった。