鐘つき聖堂の魔女
(とんだ足止めを食らったな…)
イグドラシルの背に乗って家路を急ぐライルは焦っていた。
広場を去る前に見せたリーシャの表情が忘れられない。儚げで今にも消えてしまいそうな笑みはどこか諦めの色が見え、リーシャが自分から離れてしまうのではないかという予感が何度も頭を過る。
『ライル様着きました』
静かに告げたイグドラシルにライルは下降するよう命じる。リーシャの家から数百メートル離れたところで地面に降り立ち、イグドラシルを振り返ることなく家へ急いだ。
数分と経たず家へ着いたライルは家の扉の前に人影があるのに気づいた。すると、その人物もライルの足音にゆっくりと振り返る。
「おや?お主は誰じゃったかな?」
ライルを見るなり動揺する素振りを見せたのは帝国魔術師のオリバーだった。
訝しげな表情を浮かべたライルの影からどこからともなくゼイアスが現れ、ライルに耳打ちする。
『主、こやつはドルネイの元帥オリバーじゃ』
『何故お前がここにいる』
『安心しろ。小娘の居場所は分かってる』
命令違反も甚だしいが、ライルはそれ以上追及せず、目の前のオリバーを見据える。
「リーシャに何か御用ですか?」
「リーシャはおらんのか」
「……みたいですね」
ゼイアスがここにいたということはリーシャも家に帰っていると思ったが、当てが外れた。家にも帰っていないとは、リーシャはいったいどこにいるんだ。
焦りで動揺するライル。そのライルをオリバーは物珍しそうに頭のてっぺんからつま先まで観察する。