鐘つき聖堂の魔女
「俺は助けてくれた恩人に手を出すような真似をするほど馬鹿じゃないよ」
ライルはベッドから足をおろし、足の感覚を確かめるように床を踏みしめる。
一瞬動揺したリーシャに気付いたライルは立ち上がったが、リーシャとの距離を保った。
先ほど威勢を張ったものの、顔にはやはり怯えも見えたためだ。
「大丈夫、君に危害は加えないから」
ライルは虚勢を張っているリーシャをからかうでもなく、両手を上げてリーシャを傷つけるようなものは何も持っていないと示す。
「そっちに行ってもいいかい?」
リーシャが頷いたのを確認してからライルはゆっくりとリーシャに歩み寄る。
一方、リーシャは右手中指にはめられた指輪に手を持っていく。
目の前に立ったライルは見上げるほど背丈が高く、リーシャは身をすくませるような想いを奮い立たせながら見上げた。
圧倒的優位に立つ力を持っていてもやはり不意を突かれれば一瞬で不利になる。
ライルがおかしな行動をとれば、吹き飛ばしてやろうと指輪に触れたまま構えていると、スッと差し出された手。
ごつごつとした大きな手を拍子抜けした顔でまじまじと見るリーシャにライルは「お礼が遅れてすまない」と口にする。
「昨日は本当に助かった。ありがとう、えっと…」
ライルが口ごもった理由が分かったリーシャは一瞬躊躇ったが、ゆっくりと口を開いた。
「リーシャ…リーシャ・リベリアです」
リーシャは自分の名を小さく呟いた後、差し出された手を見てその理由を考える。
ライルから触れようとはしないし、何かを欲しているにしては会話と合わない。