鐘つき聖堂の魔女

目の前にあるのはライルの柔らかな笑みと宙で止まった手だけ。

リーシャは考えあぐねた結果、指輪に触れていた手を伸ばし、指先だけでライルの手のひらに触れた。

するとライルは長い指でゆっくりとリーシャの手を包み込む。

途端、リーシャはハッと短く息を飲み込み、吐き出すことを忘れたかのように固まる。




「助けてくれてありがとうリーシャ」

「ど、どういたしまして」

これが人との挨拶の一種だと知らないリーシャはただただ身の内で破裂せんばかりの心臓の鼓動と頬に集中する熱に翻弄された。



「ああああの…も、もういいでしょう?」

「すまない。嫌だった?」

眉尻を下げて少し寂しそうに笑ってそう聞いたライルにリーシャは自分でも迷いながら首を横に振った。

リーシャが無意識にライルに触れる行為を拒絶したのは自身が魔女であることが少なからず原因している。

魔女の出生について、これは世界の共通認識であるが、魔女は変異によって生まれるものではなく、母親の遺伝によって生まれるものという歴史的証跡がある。

そして、魔女と総称されるように、何故か女にしか魔女の力は受け継がれないのだった。

多くの学者は魔法の源泉であるマナは女にしか宿らないものであり、かつ魔法という使いようによっては希少価値の高い技術は継承されなければならないと遺伝子に組み込まれているのだと説を唱えている。

母体となれる機能があるのは女だけであるため、これは人々の間でも定説となりつつある。

リーシャはそれらの知識があるだけに、自らは子孫を残さないと考えていた。

だからこそライルに触れられたとき、自分の想いとは関係なく無意識に拒絶反応をとってしまったのだ。


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