鐘つき聖堂の魔女
しかし、リーシャが抱いた感情は決して嫌悪ではなかった。
むしろ嫌悪とは別の何か例えようのないむず痒さのようなものがこみ上げてこそばゆかったのだ。
しかし、リーシャには首を横に振る以外に嫌ではなかったと証明できるほどの言葉は持ち合わせていなかった。
「あの…もう体はいいの?」
リーシャは触れられた手をひっこめ、熱を帯びた手をもう一方の手で冷やしながら話題を変える。
「ひと晩寝たら治ったよ」
「そう…」
会話が途切れる。
こうして人と接することが少ないリーシャは会話のキャッチボールが下手だ。
なんとなく気まずい雰囲気に耐え切れなくなったとき、ライルが言いにくそうに「相談なんだが…」と口を開く。
何だろうかとかまえていると、ライルは真面目な顔でリーシャを見つめた。
「暫くここに泊めてもらえないだろうか」
その言葉を受け入れるのに一秒、二秒……再び固まった。
「へ…?」
「その反応はもっともだと思う。さっき君に簡単に男を家に上げるなと説教じみたことを言っていた男がなにを言い出すんだと思うだろう。しかし体裁を気にしている状況ではなくてね」
「商人さんなら私たち平民よりもお金持ちでしょう?街の宿屋じゃだめなの?」
「恥ずかしいことに、金の入った荷物ごと奪われてしまったんだ」
ライルの言葉にリーシャはライルが裏路地に倒れていた時の状況を思い出した。
倒れていたライルの周りには荷物がなく、嘘をついていないことは確かだった。