鐘つき聖堂の魔女
「ドルネイに来たのはつい昨日のことで知り合いもいない。国に戻ろうにも金がないし、何の成果もないまま国に戻ったらそれこそ笑いものだ。せめてまとまった金ができるまで置いてはくれないだろうか」
「それってどのくらい…?」
「三か月はかかる」
思ったよりも長かったのか、リーシャは返答に困った。
冷静に考えればまず仕事を探すところから始め、仕入れの目途が立つまで働くとなると、当然それくらいはかかるだろう。
身ぐるみはがされた状態で見知らぬ地に放り出され、泊まる場所もないライルに同情はするが、自分の家に泊めるとなると話は別だ。
「もちろんただでとは言わない。仕事が決まれば働きながら家賃を払うし、家のことは全てやる」
「家のこと?」
「見たところ君はあまり家事が得意でないようにみえるんだが」
部屋を見渡してそう言ったライルにリーシャはうっ…と言葉に詰まる。
二人の目線の先には食器の入っていない食器棚、鍋やフライパンなどの調理器具のない台所が目に入る。
ライルが言ったことはまさにその通りで、リーシャは家事が得意ではない。
特に料理に関してはてんで駄目で、味付けや調理方法以前に、どんな食材をどう料理して良いかすら分からないのだ。
ハーバー夫妻の料理の真似をして何度か自分で料理をしたことはあったが、料理というよりは素材そのものを焼いただけのもので、美味しいと言えたものではなかった。