鐘つき聖堂の魔女
「困らせてすまなかった。確かに昨日の今日で信用することなんて出来ないよな。支度が出来たら出ていくよ」
「…これからどうするの?」
「まずは宿探しだな。仕事は何とかなるとして、宿はどうにもならないからね。最低限屋根があればいいからどうにかなるよ」
言うが否や早速支度を始めるライルの背中に向かってリーシャは小さく問いかけた。
リーシャは自覚していなかったが、久しぶりの客人が帰って行く寂しさを感じていた。
「そう…」と呟いたリーシャの声にライルはローブを羽織ろうとした手を止めて振り返る。
そして、何とも心配げに見上げるリーシャにライルはふわりと柔らかい笑みを浮かべた。
「看病から宿まで本当に世話になった。このお礼は必ず返しにくるよ」
「お、お礼なんていいから」
思いがけない再会の約束にリーシャはパッと表情が明るくなるも、すぐに我に返ってそう答えた。
「じゃぁ期待せずに待っていて」
「本当に気にしないで。別に貴方のために何かしてあげたわけじゃないし、お礼なら今の言葉だけで十分」
「ありがとう」
ライルはそれ以上何も言わず、厚手のローブを羽織って扉に向かう。
その後をリーシャも追いかけ、ライルがドアノブに手をかける。
「街までは北に三キロほど歩いたら着くわ。森には魔獣はいないけど、野犬や狼がいるから気をつけて。それと、ドルネイは国王のお膝元でも夜は治安が良くないから夜道には気をつけて下さい」