鐘つき聖堂の魔女
「では明日の夕刻、ドルネイの首都モリアの鐘つき聖堂で落ち合いましょう」
「あぁ」
「ご武運を」
馬の道標をしていた光の球体が一方は男のもとへ、もう一方は女のもとへ分かれる。
部下二人と別れた後、男の予想通り追っ手のほとんどは男を追いかけてきた。
速度を調整しながら走っていた男は馬を巧みに操りながら光の球体を追いかけて駆ける。
しかし、相手は実体を持たない影のようなものだ。
木々を何の障害ともなっていない追手から逃げ切るのは難しく、このままではいずれ追いつかれる。
いっそ目印となっているこの光の球体を消して息をひそめようかとも考えたが、それこそ命取りとなるだろうと回転の速い頭は即座にそれを廃した。
このまま逃げ切る他ない。
男がそう思って手綱を握りしめた時だった。
「ノーランドッ!」
女の悲痛な叫びが遠くの方から聞こえた。
まさかもう追いついたのかとほぼ並行線上を走る部下たちの方向を見た瞬間、薄い羽衣の様な光の帯があっという間に馬ごと二人を襲った。
息をつく暇もなくそれに飲み込まれた二人は、無数の追っ手に体の自由を奪われる。
「クソッ…」
男には迷っている暇はなかった。
悪態をついた男は右腕に巻かれた包帯の様な布を口に含み器用に解く。
そして、次の瞬間全ての光はその灯を喪った――――