鐘つき聖堂の魔女
起章―謎の男―
◆建国祭での拾いもの
ゴーン、ゴーン…――――
敷き詰められた石畳の道が夕日に照らされ、柔らかな色が街を染め上げる頃、重厚な鐘の音が響き渡る。
いつもならこの鐘の音を聞いて大通りの市場は店仕舞いを始めるのだが、この日は違った。
大通りの賑やかさはそのままに、所かしこから子供たちが楽しそうな声を上げながら、皆一様に街の中心に向かって駆けていく。
大通りへ続く道は瞬く間に人で埋め尽くされ、川のように人が流れる。
その中に人の波に逆らうように歩く塊がひとつ。
人々の視線を集めるその女は黒いフードを深くかぶってローブを羽織り、建物の壁に沿うようにして歩く。
いくら壁側といえど、道幅いっぱいに広がった人々に阻まれそうなものだが、不思議と女が中心街に流れていく人々とぶつかることはなく、女もまたその理由を知っているからこそ歩調を速めた。
ちらちらと集まる視線に居た堪れなくなった女は大通りへ流れる道を逸れ、細い裏路地へと逃げ込んだ。
「ふぅ…」
裏路地の壁に背中をつき、女は短い溜息をひとつ吐き、フードを降ろす。
羽織っていたローブごと素早く脱ぐと、絹糸のような細い金色の髪が薄暗い路地裏にふわりと靡いた。