鐘つき聖堂の魔女
帝国御用達の店などの贔屓があるところはまだしも、市民を相手に商売をしている店はどこも不景気に煽られている。
最近では店じまいをする店舗も少なくなく、次はどの店がつぶれるのかという話題が市民の間で交わされていた。
そんな中、ライルがたった一日で仕事を見つけてこれたことにリーシャは驚きを隠せないでいたのだ。
「お金がどこで生まれるかを考えれば簡単だよ。例えば、ドルネイでは貴族や兵士、憲兵が富裕層に入るだろう?」
ライルの問いにリーシャは黙って頷く。
「貴族が専ら興味を引かれるのは娯楽と服飾、兵士や憲兵は息抜きを求めて飲み屋に行く者が多い。そういった点を鑑みると、自然と仕立て屋や飲み屋は繁盛しているだろうし、人手も必要としているだろうと仮定したわけだ」
ライルが語る話は、帝国のお抱え魔女として働くリーシャにとっては新鮮だった。
ハーバー夫婦から不景気で店のやりくりが大変だとは聞いていたが、ライルのいうとおりお金は流れるところで流れているのだ。
「俺には仕立て屋をやっていけるだけのセンスや技術もないから、飲み屋を片っ端からあたっていっていたら運よく働き先が見つかったんだ。本当にラッキーだったよ」
ライルはラッキーだというが、運だけが雇用につながったわけではない。
きっと中心街の飲み屋は競争力が高いはずだ。