鐘つき聖堂の魔女
そんな中、ライルが採用されたのは、その容姿がずば抜けて際立っていたからだと思う。
すらりと高い身長に整った顔立ち、この上性格も穏やかで紳士とあれば、飲み屋の店主も逃す手はないだろう。
「この時間に出歩いているということは初日から働かされたんですね」
「そうなんだ。余程人手不足に困っていたんだろうな」
リーシャは頭の中でライルを引き留める店主の画が容易に浮かび、苦笑する。
ライルの疲れた様子から、入って早々みっちりと働かせられたのだと分かった。
ふと、視線を持ち上げると怪訝そうな顔つきのライルと目が合う。
「リーシャこそこんな時間に外をうろついてどうした?」
「わ、私は……散歩…のついでにレットのご飯を…」
「散歩?こんな時間に?」
答えを用意していなかったリーシャはしどろもどろに説明するが、ライルは更に怪訝そうな表情になる。
きっとライルが聞きたいことはなぜこの時間帯にうろついているのかということだ。
レットのご飯なら昼に買いにくればいい、そう思っているだろう。
自分がドルネイ帝国の魔女であり、宮殿での定例会議、そして鐘つき聖堂に寄っていたらこんな時間になったなどとは言えない。
「仕事から帰る途中にちょっと遠いところまで寄り道してたらこんな時間になっちゃったんです」
悩んだ結果、リーシャは慎重に言葉を選んだ。