鐘つき聖堂の魔女
「なんで今日はこんなに人が多いの?」
「あ!リーシャ!」
呟いた独り言に被さった声にリーシャと呼ばれた女はビクッと肩を揺らし、声の聞こえた方を見る。
すると路地の向こうからカラフルな渦巻き飴を持った少年たちが無邪気な笑顔をして駆けてきていた。
「なんだ、ジャンだったのね。もう、びっくりさせないで」
先頭を駆けてきた少年を見てほっと胸を撫で下ろしたリーシャは手に持っていたローブを素早く丸めて後ろに隠した。
「びっくりした?ごめんね」
「裏路地を通っちゃだめだってグリンダさんに言われてるでしょう?」
「リーシャまでお母さんと同じこと言うなよな。俺もう今年で15歳だぞ?もう軍にだって入れるんだからな」
ふて腐れた顔でそう言うのは、街外れで小料理屋を営んでいるハーバー夫婦の一人息子のジャンだ。
街外れという立地にもかかわらず多くの人が訪れるその店にはリーシャもよく訪れており、繁盛している店を手伝うジャンと顔見知りになるのには時間がかからなかった。
ジャンは店に訪れる客に可愛がられ、実際に年頃の割にはよく働いていると思うのだが、時々こうして店を抜け出すことがある。
もちろんハーバー夫婦はジャンが店を抜け出して街に出てきていることなどお見通しで、こうして街の子と遊ぶことも必要だと思っている。