鐘つき聖堂の魔女
「魔女たちの中にも怯えて暮らしている者たちがいることが現状です。居住区に入っていただければきっと安心して暮らしていただけることを保証いたします」
「そもそもそれも納得がいかないわ。誰が国民の安全を守っているの?誰が魔獣から国を守っているの?誰がこの若き王を守っていると思うの?」
「俺は守られてるつもりはないぞ」
「煩い。ラシッドはちょっと黙ってて」
興奮したエルザは例え王であろうと止めることは出来ない。
ラシッドと呼ばれた肘掛け椅子に座る男はエルザの物言いに怒ることはなく、面白そうに笑っただけだった。
「国民が魔女にありがたみを感じろなんて言わない。けど魔女はもっと自分たちの功績を誇るべきだわ。少なくとも私は魔女であることを誇りに思っている」
「しかし、皆がエルザ様のようではありません」
「なら居住区をつくって魔女を強制的に住まわせるより、人間と魔女が共存できる環境づくりに関する提案が欲しいものですね」
「まぁ俺の言いたかったこともそんなところだ」
ラシッドはエルザの主張にかぶせてそう言った。
しかし、部屋の雰囲気は最悪そのもの。
エルザに意見を求めた時点でこうなることは分かっていた。
逆撫でするような言葉を平気で口にするのはエルザの性格故か。
皮肉めいたことを口にして幾人もの人々を敵に回してきたが、魔女たちからの信頼は厚い。
「反論も無いようなので、今日はこれで解散とする」
会議の終わりを示すその言葉に、不満の残る表情をしながらも皆手元の資料を整えた。
ラシッドも椅子から立ち上がり、部屋を去ろうとしたとき。