鐘つき聖堂の魔女
「分かりました。後は私がやりますからヒュクスさんは店の掃除をお願いします。二コラさんのおかげでついた常連さんがこれ以上離れていっては困りますからね」
「おう!後は任せた」
柔らかい口調の中にもチクリと刺さるような嫌みを言われてもこれっぽっちも気にした様子もないヒュクス。
苦手な仕込みから解放された嬉しさから口笛を吹きながら箒と雑巾を持ってフロアに出る。
ライルはどこか憎めないヒュクスに苦笑しながら、放り出されたままの鍋の味見をする。
「……ヒュクスさん」
「なんだ?」
「笑えないくらい不味いんですが」
眉を顰め苦虫を潰したような顔をするライルにヒュクスは乾いた笑みを浮かべた。
「だしの取り方を間違えてますね。あれほど味見をしながら作ってくださいと申し上げたのに…。これはレシピ通り作る以前の問題ですよ」
「だ、だからお前に頼んだんだろ。俺は外の掃除してくるからよろしく頼むぞ!」
「あ、ちょっと!ヒュクスさん!」
ライルは勢いよく閉まった扉に声を上げるが、ヒュクスの逃げ足は速かった。
「たく、とんだ店で働くことになったな」
ライルは大きな溜息を吐くが、その顔は憂いてはいない。
そんないつもと変わらないにぎやかな中、カフェバー“オルナティブ”は開店した。