鐘つき聖堂の魔女
「もちろん健康のためには苦手なものを食べて貰う努力はするし、してもらうけどね」
そういってリーシャの頭に置かれる大きな手。
最近ではライルがこうして親しくスキンシップを取るのにも慣れた。
そこには男女のそれはなく、妹に接するような温かさを感じる。
だからか、リーシャも余計な意識をすることなく、むしろライルを兄のように慕いはじめていた。
同時に髪と瞳の色を変え、偽りの姿で接することに罪悪感を覚える。
ライルなら自分が魔女だと打ち明けても良いのではないか。
リーシャはライルと接するうちにそんなことを思うようになっていた。
その後、二人で溜まっていた洗濯物を干してから首都モリアへ向かった。
モリアは久々の快晴からか軒先で商いをしている店が多く、人通りが多い。
大通りにもかかわらず人々の肩がぶつかるほど賑わっているのはやはり昼時だからか。
「あ…ごめんなさいっ…」
ドンと体がぶつかるたびにリーシャは小さな声を上げてはぶつかった相手にぺこぺこと小刻みに頭を下げることを繰り返している。
人の多い場所に慣れていないうえに深くフードをかぶっていればぶつかりもするだろう。
ライルは慣れているのか横から前からくる人々を上手くかわしながら歩いていたが、見かねて歩を止める。
「わ!どうしたのライル」
「はい」
急に立ち止まったライルの背中にぶつかったリーシャは差し出された手を不思議そうに見る。
「そんなにぐるぐる周りを見渡してたら目が回るよ。手を引いてあげるから俺の後をついてきて」
「ありがとう」
確かに先ほどから目まぐるしく変わる風景に人酔いをしそうになっていたところだったため、ライルの申し出に甘えた。
大きな手に自分の手を添えるとライルは小さく微笑み、前を向いて歩き出した。