雪解けの水に潜む、紅




そのことが何故かとても不思議に感じた。
だって中に入ることは殆どの人が不可能なのに、こんなに難しくする必要があった?
『歌え、惑え、人魚の声に耳を澄ませて。』
つまりはそう言うこと。
この塔にティアラは置いてないということ。
本当に惑わされるところだった。
全てフェイク。じゃあ一体ティアラは何処にあるのだろうか。
それに私の勘がその扉を開けろと言ってくる。
恐る恐る小さな穴に鍵を差し込むと勝手に右へ二つ回った。

蝶番が外れたような音がして、ネズミの体ほどの扉が上に開いた。
私の手が丁度通れるくらいの幅で肘くらいまでしか長さがない。
中から数匹の虫が這い出てきたが、それ以外に何かありそうな気配はなかった。
やっぱり、罠だったの?
何か不吉なことが起こる前に逃げちゃおうと踵を返したときだった。


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