雪解けの水に潜む、紅
私がその地に足を着けたときには、哀れな王は囚われていた。
疲れたような表情は、私の持つティアラを見た途端希望と野望に変わった。
「すばらしい!流石ワシが望んだ者だ。シルビア!さあ、早く。それをワシの頭に乗せなさい!」
歓喜に叫ぶ王に私は静かに首を振ってみせる。
「なんと・・・。貴様はワシの命令が聞けないのか!寄越せ!」
「王さまは私に仰いました。もう私の力は要らないと。お前は死んでしまえと。私が見つけたティアラです。私がどのように使おうと王様には関係のないことでは?」
私の言葉は、王様には届いていなかった。
それでも、私は言葉を続けた。
「私は助けを求めていました。孤独の中で生きているのはとても辛い。死ぬよりも辛いと思いました。憎んだこともあります。だけど、憎しみからは悲しみしか生まないと判っているから・・・。王さま、私はティアラを被りません。私は、平和の為に。そのためだけにティアラを捜し求めました。」
ティアラを見つけることは、私が思っていた以上に難しいことだったけれど。
ようやっと手に入れた使い道も考えていなかったティアラ。
今、私の心は決まった。
「このティアラは今の戦を止めるくらいの力しかないでしょう。永遠に続く力はありません。だけど、持続することは可能です。魔法でも他人の力でもなく自分たちの力で。」
弟の顔が大勢の人間の間から見えた。
ティアラを昇ってきた太陽に掲げてみた。
きっと、こうするべきだと直感で思った。
「私は・・・。平和を望みます。」