雪解けの水に潜む、紅


あなたは決して、一人ではないのよ。
その言葉を残して彼女の幽霊は完全に消滅した。


俺たちは体が、心が、フワフワしているような錯覚に陥って、動かない体をどこか遠くで見ているようなそんな感覚を覚えていた。
母親さえも消えてしまった彼は縋るような、だけど何かを決意したような瞳で前を見つめていた。



彼の瞳は、もう絶望も、憎しみも、怒りも映っていなかった。


ただ、夢と希望に満ちてキラキラ輝いているように俺には思えた。
太陽の日差しが強くなって、新しい夜明けが来て。


山の向こうから差し込む暖かい光に包まれながら俺たちは誰からともなく歓声を上げた。
終わった。俺たちの復讐も何もかも、今ここで終わりを告げた。
何人もの犠牲者を出し、力に魅せられて起こった戦争は。



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