雪解けの水に潜む、紅
あの日、あの時、私はキセキを目の当たりにした。
揺れる木箱が停まり、鈍い光が差し込まれた。
首根っこを捕まれ、まるで薄汚れた猫を扱うかのような乱暴さで引き摺り下ろされた。
猿轡を外された瞬間私は無意識の内に服の袖で涎を拭った。
次から次へと木箱から人が投げ出された。三歳くらいの子から十歳くらいの人まで多く居たけど、やっぱり皆子どもだった。
複数の木箱から大量の子どもが溢れ出てきた。
私のように外の国から来ていそうな子もいる。
涙を堪えている男の子、泣き喚いて殴られまた泣く女の子も。
まるで絵本に出てくる奴隷市場のように一列に並ばされた。
どこかの地下洞のようなソコはお世辞にも綺麗とは言えなかったし。
腐った肉を煮詰めた人骨に放り込んだような悪臭がした。
その臭いの元は恐らく、傍らでグツグツと煮えたぎるマグマからだとも思われる。
前に立っていた私より少し年上くらいの少女が脱力したように這い蹲った。
駆け寄ろうとすると見張っていた兵士が動くな、と威嚇したので衝動に駆られないように視線を逸らした。