雪解けの水に潜む、紅


言われたとおり、後ろを向いて服をたくし上げた。
その時を待つ間走馬灯のように五年間を思い返した。
初めの二年はあまり覚えていないけど、母さまの言葉では私は一際大きく泣いたらしい。
だから、思ったんだって。生まれてくれてありがとう。ここにいるって教えてくれてありがとうって。

私はどんな形になっても、母さまの子どもだから。
でも、言いたかったな。生んでくれて、ありがとう。って・・・。
幸せだったよ、とても自由で、楽しくて、キラキラした毎日を送れた。

母さまと弟と僅かな間だけど父さまと過ごした。
海に行ったこと、そこで釣りをして、海の中で破れくらげに刺されたこと。
アンデル山に登ったこと、途中で気分が悪くなったこと、カモシカの背に乗ったこと。
祖母の家に行って、誕生日を祝ってもらったこと。二人して同じおもちゃで喧嘩なんてしなかったこと。


「幸せ・・・。」
生きることが幸せなら、私はずっと幸せでいられる。
母さまの分まで幸せになれる。
そろそろかな、そう思ってギュッと目を瞑った。

痛みを想像するのは、今の私には不可能だったから。
母さまと父さまを失った私に、これ以上の苦しみなんて無いと思っているから。



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