雪解けの水に潜む、紅



昼間私が母さまたちと観光したお城の中だとしたら、あの時だれが数時間後にはこんなことになると想像しただろう。

唯の街娘の私が、五歳の誕生日に訪れた国で捕まって、今や綺麗に着飾られて王さま(仮)の前に押し出されてしまっているのだ。

人生って何があるのか判らないって本当だと思う。
さっきまで、私奴隷になると思っていたもの。

部屋の入り口の直ぐ近くで、三頭犬が鎖で出来たゲージの中で暴れまわっている。
壁に掛けられた歴代の王たちが玉座に座る現王に罵声を浴びせている。

『奇人』『狂人』『恩知らず』『人ならざるもの』・・・あ、花瓶が投げつけられた。

新しい王さまも人が悪い。肖像画にむかって花瓶だなんて。
割れた欠片で破けたら彼らも痛いだろうに。

王は気が済んだのかピカピカに磨かれた椅子に深く腰掛け、組んだ足の上に血塗れた銀の剣を磨いていた。

「国王陛下、ティアラの娘が見つかりました。」

えー、おほん。と咳払いをした執事みたいな初老のお爺さんが王さまに話しかけた。



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