雪解けの水に潜む、紅
彼は残りの人生を、狭苦しい地下洞に押し込められて孤独に死んでいくのだと思ったらいてもたっても居られなかった。
考えるより先に、体が動いた。
それ以来、私はちょくちょく彼の元に足を運んでいる。
それから王が私をここに留めておくために用意した母さまのお墓にもよく訪れている。
家庭教師として約五年間、私に魔術を教えてくれた先生が亡くなり、そのお墓も母さまの隣に立ててもらった。
この世界で、魔法を使うものは極めて少ない。けれど、魔法を使えば母さまに会える。
私は自らが術者となって、母さまをこの世に留まらせた。
幽体ということだ。つまり、ゴースト。
私は私の勝手な理由で、母さまを縛り付けることにしてしまったのだ。
それこそが、私がこの国から逃れられない絶対的理由であり、私自信を縛り付ける戒めとなった。
ゴーストになったものは、墓を家とする。
その場を離れてしまえば、死より、この世の何より恐ろしい苦しみを永遠味わうことになるというのだ。