雪解けの水に潜む、紅
昔よりも随分大きくなった。
私に良く似たカオを持ち、同じ綺麗な金髪を棚引かせている。
息を呑んだ私の耳に微かに聞こえ始める、三人の声。
「それにしても、シルビアは、本当に・・・。」
私の話をしている。オジサマは十三年たっても私を覚えてくれている。
「オジ・・・父さん、ミルの前でソイツの話するなよ。」
ガツン、とトンカチで殴られた気分だ。
ソイツ、父さん。
私がずっと大切に思ってきた弟は、この十三年で変わってしまったようだ。
「ジュディ、お姉さんだろう。」
「ミル、気にしなくていい。君の知る人じゃない。それに、死んだんだ。」
ハハッて笑って猫なで声を出す女性を抱きしめた。
「おい、ジュディ・・・!」
酷くショックを受けた顔をしたオジサマはこれ以上手に負えないと思ったのか、どこかへ去ってしまった。
その背中を鏡越しに、ただ呆然と見ることしか出来なかった。
その後、2人がなにやら話をしていたけれど私の耳には届かなかった。
貴重な水鏡の一回を裏切りの為に使ってしまった。
盥が手から落ちて、大きな音を立て割れた。
泣き叫ぶような声が、形を失くした欠片から聞こえたような気がした。
目の前は真っ暗で私が今まで守ってきた家族はどうなるのだ、と心の中の私が泣き叫んだ。
もう、何度心の叫びを無視しただろう。
そしてまた私は一つ、心の欠片を失った。
私の心はまだ残っているだろうか。