雪解けの水に潜む、紅
右側だけ開いていた店の扉から、血相を変えた男がなにかを叫ぶと、一瞬の静寂の後店内に居た人々はパニックに陥り、一斉に出口を目指し始めた。
私は母さまに、片割れはオジサマに担がれ周りと一緒に外へ飛び出す。
先程までの記憶を辿れば、真っ青だった綺麗な空はいつのまにか血のような紅に変わっていた。
街も闇に包まれてしまっている。
大きくて、恐そうで、強そうな何かが弾丸のようなスピードで、あちこちに逃げ惑う人々を空から襲うのを私は泣き叫ぶこともできずに見つめ続けた。
それらは地上で速く走り、空を突き抜け、恐怖を煽る。
どうやらこれは、人と人との戦いが招いたようだった。
あれの背に軽装の鎧を纏った男たちが乗っている。
昼間見た芸術的な大きな城に、木箱が運ばれていくのが、家と家との間から一瞬だけ見えた。
オジサマと片割れは母さまより早く、待ち構えていた馬車に飛び乗った。
それに続こうとした私たちは、目の前に例の大きなものが立ちはだかった所為で歩を止めざるを得なかった。
母さまは私を守ろうと、馬車に一直線に向かいなさい。とだけ言って私を地面に降ろし、生き物と対立した。
言われたとおりに走ろうとした私の首根っこは誰かの手によって掴まれ地面を蹴るはずの足は宙でバタバタと暴れただけだった。