雪解けの水に潜む、紅
微かに開いた窓の隙間から、冷たい夜風が髪を撫で泣きじゃくる私を三日月の淡く弱い光が包み込んだ。
母さまはいつのまにか居なくなっていたけれど、芝生を踏みしめる足が何も掃いていないことに今気がついた。
「憎しみは・・・今は・・・。」
母さまの願いは私の願い。
ティアラを探さなくちゃ。
バスタオル一枚で出歩くなんて、私もお馬鹿さんね。
涙はもう止まっていたけれど、心の奥がやっぱり少し痛んでいた。
部屋に戻った私を待ち構えていたのは、険しい顔をした警護の人だった。
一体その格好で何処に行っていたのだとでも言いたげな目を私に向けて顎で机の上を示した。
大量の執務。
また、何かやらかしたのか。
一枚目に目を通すと、それは唯のメモだった。
「 また色々とやらかした。罪の償いをよろしく。 」
王からのメモにまたか、と溜息をこぼすことになる。
やりたい放題横暴な王の悪行を被ることになるのはいつだって私の役目。
父さまの偉業を汚さぬように、と執務をこなしているはずが。
悪名を被るのに慣れてしまっていた。
そうだとしたらこの紙の束は恐らく民からの陰湿な手紙とか、訴え。
一通り目を通し終わるころには、すっかり日が昇っていた。
適当に捌き、帰っていく側近の背をもう来るな、という願いを込めて見送った。