雪解けの水に潜む、紅



「ディモンド、私変なものを貰ったの。何かの石盤よ・・・それで・・・。」


そこまで話してむき出しのディモンドの足を見つめた。
筋肉は衰え翼も皺寄っている。これではもう飛ぶことも出来ないだろう。
黒い産毛のようなものに包まれた大きな鉤爪を見てポシェットの中の石盤を見た。
地面に出来た、幾筋もの引っかき傷が同じだ。
石盤の線の太さが、ディモンドの持つ爪が掻く線と同じ太さであることに気が付いた。


「ねえ、ディモンド。ドラゴンは皆同じくらいの爪の大きさ?」
「・・・俺たち、黒い龍はそうだな・・・。龍王の強さの一つが、この爪だ。黒龍の牙か爪に心臓を貫かれたら、終わりだ・・・。いかなる魔法も効きはしない。」

静かに死ぬのを待つだけだ。
そう言ってディモンドはまた眠りに着こうとしていた。

「違うの、終わっていないの!お願い聞いて。これは、あなたの仲間が作ったものじゃない?」

石盤を掲げて見せた。
最初は見ていなかったディモンドがソレを視界に入れた途端、眼球が飛び出すほど目を見開いた。

気だるそうな体を起こし、首を伸ばして石盤を覗き込む。
巨大な龍の手の中でもその石盤は大きく見えた。

「これは、龍王族のものだ。シッカチーニオ地方に俺たちの住処があった。今は焼け爛れているがマグマ山が特徴的な豊かな崖地だった。むき出しの山脈に鱗を擦り付けてノミを払っていた。当時の長がオレの親父だ。あいつらは交渉を持ちかけた。良い待遇が受けられ、好物の大人の肉が食えるのは魅力的だった。親父は提携を結んだ。」



< 38 / 121 >

この作品をシェア

pagetop