雪解けの水に潜む、紅



昔話は終わったらしい。今はこの石盤が大事だとわかったのだろう。
「移動するときに、山脈のどこかに落としてしまったらしい。それが、ここに・・・。これは、オレたち一族に伝わる魔導の歌だ。」

「歌?」
私は、歌が最も苦手なのに。
本にメロディはついていないもの。


「ああ、人の言葉で書いてやる。紙はあるか?」
「羊皮紙なら・・・三メートルくらいだけど。」
「構わない。」

私はポシェットから羊皮紙を取り出すと、彼に手渡した。
石盤を見ながら模写していく。
吐く炎の息吹がようやく消えた時、ディモンドが倒れこむように首を落とした。

「オレはもう寝る・・・。頼む、歌ってくれないか?」
「でも、メロディーも・・・。」

「適当でいい。」

もうこれ以上、瞳を開ける気は無いようだった。
仕方ない。

羊皮紙を見つめながら、口ずさんでいく。
適当でいい、と言われたものの羊皮紙がメロディーを奏で始めた。


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