雪解けの水に潜む、紅
食われるのか、と目をギュッと瞑ったが
どうやら私を掴んだのは生き物の背に乗っているはずの人間だった。
高い背大きな手。男の人だ。鎧の隙間から覗く冷たい瞳をただ黙って見つめた。
「子どもを捕まえたぞ!」
まだ若い男の声が周囲に聞こえるようにそう言い放つと私の手に枷をつけた。
重たい金属の輪っかが私を戒める。
どうやら子どもを捕まえて何かをさせようとしているらしい。
男の言葉によってこの場所に引き寄せられた、あるものを見て母さまの顔色は一層悪くなった。
私でも判る。
奴隷用の、木の箱。
先ほど城に入っていったのはこれだったのだ。
叫ぶ母さまの声は、人の言葉になっていなかった。
助けを求める母さまとは違い私の心は決まっていた。
「諦め」てはいたが「信じて」いたからだ。
だから取り乱すことも、暴れることもしなかった。
する、必要がなかった。