雪解けの水に潜む、紅



魔力を封じ込める釘の所為で私はこの釘を抜くことは愚か、治癒することも出来ないのだ。
もう痛みを受け入れ、意識を飛ばしてしまおうか、と悩んだときだった。
断末魔のような人ならざるものの叫びが、城中に響き渡った。
・・・ドラゴンだ。
仲間を思う、ドラゴンの声だ。
最も親しい者を亡くした時のやるせなさは人もドラゴンも同じだと、どうして誰も判らない。
権力を求め争い、力を求め争い、権力を奪うために争う。
ループでしかない。なんて、醜い世界だ。赤以外の世界をもう一度見たいと誰も思わないのだろうか。
いや、この国の王が一度でも考えを改め平和に勤めようとすればこのようなことは起きなかった。
更に遡れば、この男が権力など求めなければ私は今こんなところに居ないし、ディモンドもシッカチーニオ地方の山脈で気高き人に飼われぬ龍として誇りのままに生きていただろう。
過去を悔やんでも仕方のないこと。
ドラゴンの悲痛な嘆きはいつまでも鳴り響いていた。
出来ることなら耳を塞いでしまいたかった。
このような状態でなければ、目を瞑り、耳を塞ぎ誤魔化すような叫び声を上げていたところだ。
だのに、今の私は目をディモンドから背けることしかできない。
無力な。
助けることは、私には出来ないのだろうか。
ドレスは煤で真っ黒に汚れ結い上げていた髪は緩く解け、手と足は血でべっとりと濡れそぼっていた。
磨かれた鏡のような反対側の壁に映った私の顔は、酷く疲れ、老いた様にも見えた。
ディモンドは、ようやく目を覚ました。



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