雪解けの水に潜む、紅




それでもいい。ディモンドと一緒ならば、それもいい。
「ディルダの国は滅ぶ!お前たちの王は・・・!」
入り口で聞こえた声が止まった。
私とディモンドの姿を見たのだろう。
もしかしたら、兵士が隠れているのかもしれないと推量したらしかった。

広い空洞の中死にかけた竜王と、磔にされた十八の娘。
一人の兵士で十分簡単に殺せるだろう。
目の前まで焦ったような足音が届いた。
特殊な釘の所為で、私の手足の穴は閉じそうになかった。

強い魔法なら、或いは助かるかもしれないが。
薄らと開いた目には、綺麗に磨かれた靴しか見えなかった。
殺すだろうか。先端しか見えないのに判る、その大きな剣で。
そうすればいい。もはやこの世に何の未練も残らない。
ああ、でもやっぱり・・・。
「母・・・さ、ま。」
もう一度、会いたかった。

優しい眼差しを受けたかった。
冷たくていい、支えられなくていい、ただ抱きしめて欲しかった。

どうしよう、母さま。

悔い、残っちゃったみたい。

目の前の男が息を呑んだ。




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