雪解けの水に潜む、紅


余計な体力を使う必要などないからだ。

母さまはただ泣き叫び、返してくれと懇願した。
私の代わりに、とか誰か助けて、とか。
そんな言葉も言っていたが、聞き入れてくれるとは到底思えなかった。
「母さま、逃げ・・・!」
母さまに危険が迫っていることに気が付いた私は慌てて注意を促そうとするが、彼女の耳には届いていない。
その間にも刻一刻と時間は過ぎている。
しかし背後から猿轡を噛まされ、危うく舌を噛み切るところだった。

そして私が注意を逸らしたその一瞬の隙に母さまの首から上は無情にも生き物の口の中へ落ちていった。
生き物の喉が一度大きく動き、首から上を失った母さまの断面からブシュアっという音と血が噴出した。
視界が深紅に染まる。「母さま」が力もなく地に伏した。



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