雪解けの水に潜む、紅



冷たく、だけど暖かい球状の液体が私の顔や首や頭を濡らした。
重たい瞼を開き、目の前の男を見た。
どこか懐かしい綺麗な金髪も、父さまのような輝く青の瞳・・・。
私はこの男を知っている。

何よりも憎むべきものなのだ。
端正な顔を歪め、涙し、私を見つめ続けている。
裏切り者が私を見ている。
逃げた。私を置いて、母さまを見殺しにして。
関係を絶ち、幸せになろうとした。
同じカオを持ち、同じ力を持ち、同じ家族を持っていた、血を分けた唯一無二の双子。

「姉、さん・・・・」
男の口から発せられた言葉が、酷く腹立たしかった。
抱きしめる腕の力を込めようとした男の中から抜け出した。
幸い、傷みはもうない。
驚きに目を見張る弟を冷たく見下ろした。
「どうして、助けたの。」
「どうして助けたりしたの。あの時、あなたは私を、母さまを見殺しにしたくせに・・・。」

攻めるような目を向けると、あからさまに顔を背けられた。
言葉を、受ける止める勇気も強さもないの?

「私のことを、赤の他人と呼んだくせに。死んだと思ったくせに。ソイツ、って言ったくせに。今更、私を姉だと呼ぶの?私はあなたが弟だなんて思わない。思いたくもない。汚らわしい、裏切りの男なんて。水鏡であなたを見てから、私の毎日は更に地獄の底へと落ちたわ。幽閉されてからどこかで生きているあなたを思って暮らしてきた。一人ぼっちで、王の為す悪行を全て私が肩代わりして・・・。それでも耐えられた!王の言葉は今でも私を縛り続ける。ティアラを見つけるまで、私は決して逃れられない。」



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