雪解けの水に潜む、紅
逃げれば良かったんだ、と呟いた弟の言葉に、強く言い返した。
「母さまの墓が壊されてしまえば、もう本当に会えなくなってしまう。私が逃げれば、王はあなたを探し出して殺すと言ったわ!だから・・・逃げられなかった。あなたを、母さまが守ったあなたを、失いたくなかった。なのに、あなたは私だけでなく、母さままで裏切った。辛いと泣く私に母さまはいつも言って聞かせてくれた。『ジュディは優しくて強い子だから、あなたが生きているのを信じてきっと助けに来てくれる』って。私はそれを信じ続けた。信憑性のない、幽霊の言葉を私は十三年間。信じ続けてきた。」
ドレスを引っ張り、肩と背中を見せる。
「王は機嫌が悪くなると、執務をしている私を引きずって地下牢へ連れて行くのよ。吐く火の制御が出来ない子どもの龍の焼印練習に何度も私を使ったわ。いやだ、と逃げ出そうとする私に王はいつもこういうの。『一人で寂しく生きているお前の弟が刃に貫かれてもいいのか?』って。私は絶対、王に逆らうことは出来なかった。」