雪解けの水に潜む、紅
「私はずっと水鏡であなたを見てきたわ。この十三年間、あなたは一度たりとも、私の生を信じることはなかった。私を、思い出すことをしなかった!」
叫ぶ私の目を彼は見つめ続けていた。
涙が溢れ、視界が歪み、頬に伝うと、初めて彼の顔が崩れた。
張り付いたような無表情が崩れ、私を見る瞳に謝罪の色が見えた。
だけど、彼はとうとう何も言うことは無かった。
オジサマの元で幸せに暮らした十三年間。
あなたは私の知らない世界を沢山知っていた。だけど、そんなことどうでもよかった。
私が囚われていることを妬んだ事はあれども、憎んだことはなかった。
私を、思ってくれていると信じていたから。
「・・・ミルが死んで、俺の世界は暗黒に染まった。心の中にあったのは復讐のことばだけだ。」
弟は震える両手を見つめた。
「ミルの遺骨が、俺の元に届いたとき言いようもない苦しみが襲ってきたんだ。悔しかったよ、俺が目を離した隙にミルは俺の手が届かないところへ行ってしまった。」
そう。人が亡くなるということはそういうこと。
なのに、あなたは私が死んだと思い込み、母さまの死を苦しむこともしなかった。
恋人が死んでしまったら確かに辛いと思う。
だけど、だけど、だけど、家族が死んだら同じくらい悲しいと思うの。
虚しいと思うの。
辛いと思うの。
どうして、私を信じてくれもしないの。
「ディルダの王が、私が主犯だというのなら私は喜んでその罪を負いましょう。いくらでも背負うことが出来る。母さまは私を信じてくれるから。王さまが、身代わりになれというのなら私は身代わりになるでしょう。」
「姉さん・・・。」