雪解けの水に潜む、紅
次から次へ溢れ出てくる涙。
どれだけ泣けばいいんだろう。
涙を止めてしまいたい。
夢だと思いたい。
十三年にも及ぶ長い、長い夢であって欲しいと、強くそう思った。
静かな地下洞に私の泣き声だけが木霊して、開いた穴から覗く半月が私を密かに嘲笑う。
トボトボというふうに聞こえる足音が段々、小さくなって。
とうとう、私とディモンドの亡骸だけになってしまった。
硬くて分厚い鱗の向こうから温もりが消えていく。
ついさっきまで、生きてたのに。こんなにも直ぐ冷たくなってしまうの?
ふと、顔を上げると口から一筋血が流れているのが見えた。
怪我かと思って力の入っていない顎を押し開いた。
竜の牙や爪はいかなる魔法をも効かない毒をもつ。
触れないように気をつけながら、放ってあった蝋燭に火を付ける。
灯された明かりによってよく見える彼の口の中。
一際大きな牙の一本が抜かれていた。
根元から無理やり引っこ抜いたらしい。
きっと、痛かったに違いない。