雪解けの水に潜む、紅



次から次へ溢れ出てくる涙。
どれだけ泣けばいいんだろう。

涙を止めてしまいたい。
夢だと思いたい。
十三年にも及ぶ長い、長い夢であって欲しいと、強くそう思った。
静かな地下洞に私の泣き声だけが木霊して、開いた穴から覗く半月が私を密かに嘲笑う。

トボトボというふうに聞こえる足音が段々、小さくなって。

とうとう、私とディモンドの亡骸だけになってしまった。

硬くて分厚い鱗の向こうから温もりが消えていく。

ついさっきまで、生きてたのに。こんなにも直ぐ冷たくなってしまうの?

ふと、顔を上げると口から一筋血が流れているのが見えた。
怪我かと思って力の入っていない顎を押し開いた。

竜の牙や爪はいかなる魔法をも効かない毒をもつ。

触れないように気をつけながら、放ってあった蝋燭に火を付ける。
灯された明かりによってよく見える彼の口の中。

一際大きな牙の一本が抜かれていた。
根元から無理やり引っこ抜いたらしい。


きっと、痛かったに違いない。





< 57 / 121 >

この作品をシェア

pagetop