雪解けの水に潜む、紅



呆然と突っ立って居ると、木でできた奴隷用の箱にぶち込まれた。
顔面を強打し呻きたいところだが、猿轡の所為でそれはかなわなかった。
痛みを堪えながら、母さまの亡骸をもう一度見ようと体を起こし入り口に這う。

しかし、兵士は扉を閉め始めていた。
十センチほどの隙間でやっと見えたのは、沈む太陽の方角に向かってオジサマと片割れを乗せた馬車が皮肉にも走り去ってしまう光景だった。
血みどろになった首なしの母さまの遺体を見捨てたまま・・・。


声にならない叫びと心臓を引き裂かれるような痛みを感じながら、その光景を目に焼き付けていた。
そして、辺りは静寂と暗闇に包まれた。
低く冷たい扉の閉まる音だけが自棄に寂しく箱の中で響いた。



時折聞こえるすすり泣く声と衣擦りの音。
微かに感じる人のぬくもり。





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