雪解けの水に潜む、紅


それに私の中にはもう一欠けらの魔力も残っていない。
「さっさと行くぞ。」
「DDは判るの?」
本当の道は、幻想に隠されてしまっている。
深い霧の中を歩いているようなものだ。
それにここは山。
いつ足を踏み外して下に落ちてもおかしくない。
「ドラゴンは三番の目を持つ。」
「え、そうなの?」
真を導く第三の目。人間が欲しがるものの一つだ。
「こりゃちょっと狭いな。」
「何があるの?」
尋ねると、私の体を押した。
滝だと思われたソコは、壁になっていた。
しかもザラりとした感覚の中につるつるした物がある。
「蔦があるだろう。それを登るんだ。」
「DDは?」
「俺も行く。」
どうせまた動物に変化するのだろう。
案の定、DDは鋭い鉤爪を持つティプターに姿を変えた。
猫のような風貌なのに、彼らはドラゴンの鱗をも切り裂く爪を持つ。
ただし、草食動物で普段は気弱な性格。こちらが敵意を向けない限り決して襲うことはないペットに向いた生き物だ。
誰も飼わないけれど。
蔦を切り裂いてしまうのではないかと思ったが。DDは壁を登っている。
暫く行くと、霧が晴れて辺りが見渡せた。
「見てみろ。」
言われて下を向く。


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