雪解けの水に潜む、紅
此処に来た初めのころは大きくフカフカなベッドの中で目覚めると、ここは奴隷市場ではないかと錯覚もした。
十三年前、ディルダ王国を襲った反逆軍のミルバ戦隊。
王国軍の八割を占めていた隊に成す術もなくディルダ国は滅び去った。
ミルバ戦隊こそ、私を捕らえ母さまを殺した張本人である。
そして勝利を勝ち取ったミルバの隊員たちは新しい王を立て、新・ディルダ・メトレーニア王国として建立したのだった。
幾多もの死傷者と金と平和を犠牲にして、力をモットーにする国が生まれた。
そしてあの時の戦は、新しいディルダ王国において偉大な行いであるとされている。
戦勝記念碑さえ立てられ、ドラゴンの背に乗った偉人マスベルト四世の巨大な銅像が王宮の入り口に荘厳な雰囲気を醸し出している。
戦をする者の、独特の匂いというものが銅像にも込められている、と言ったほうが正しいかもしれない。
高さ二百メートル、横幅六百メートルにも及ぶ無駄極まりないものであるが。
こんな恐れ多いことこの国では誰にも言えないのだが。
一応私は、正統王位継承者である第一王子のデュアル王子の許嫁となっているから。
きらびやかな服と名前に彩られた彼はふんぞり返って歩くけれど、旧王国の王を殺した反逆者の息子。