雪解けの水に潜む、紅



なんという国王愛。
偽物の愛情がここまで私を蔑むとは。
侮辱にもとれる彼らの視線に怒ったのはDDだった。
彼は私に向けられた敵意を全て焼き払おうとしているのだ。
「ダメよ、DD。あなたに殺しは似合わない。」
彼の手を引いてその場を離れようとする。
DDに向けられた一本の矢は大きく的を外れていった。
「なんだ、あれ・・・。」
「ドラゴンは変化が使えるの。」
彼の姿は、毒粉サソリ。毒の粉を振り撒く、悪魔のサソリだ。
「にっ、逃げろ!」
毒粉サソリを知っている人がいたとは驚きだ。
彼らの言葉を合図に一斉に逃げ出す人々。
怪我人を放って逃げているくせに、どうして平和など唱えられるのだろうか。
「待ってくれ!」
歩けない怪我人に薬草を差し出す。
「え・・・。」
「私にはやるべきことがあります。魔力も残っていない。だからせめて。」
肉が裂けて焼け爛れた足に薬草を乗せ、涙を数粒零した。
引っ付き草は水がかかると、裂けたものを引っ付かせることが出来る。
「きっともう直ぐくっ付くから。そしたら痛くないから。」


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