Dead Flower
はあ、と白い息が漏れる。
やはり早朝の朝は寒い。
ちょっと早すぎたかな。
そんなことを考えながら足を動かした。
最近、華は元気がない。
本当は話しかけたいけど、他の人が「華は疲れてるからそっとしとこう」と言うし、華も話す気分じゃないかも、と思ったから話しかけなかった。
でも、今日はちゃんと話すんだ。
今日は珍しく早起きをしたから、華に笑ってもらえるような話をするんだ。
にやけそうになる口元を押さえ込み、軽い足取りで学校に向かう。
学校に着き、時計を見る。
やっぱり早すぎたようだ。
朝の会までまだ30分ぐらいある。
そうだ。早めに行って驚かせるんだから。
階段を上り、四階にたどり着いた。
階段はいつも重くて仕方ないが、今日は淡々と上れて気持ちがいい。
廊下には誰もいなく、静まり返っていた。
5組は階段の目の前にある。
私はドアに背を向け、もたれかかる。
華はどんな反応をするかな。
最近話してなくて、暗くなっちゃったかな。
いくら暗くてもちゃんと向き合う。
それに、久しぶりに楽しく話せたら、華もきっと嬉しいと思う。
思わずひとり笑顔で頷いた。
――――「――…!!?」
ぞわっと全身を寒気が襲う。
(な、何……!?)
ざわざわと音をたてるぐらいの胸騒ぎ。
震え上がりそうになる。
寒気は、背中を中心に伝わる。
振り返るのが怖くなる。
でも、見ないといけない気がする。
ドアについたガラスの窓を覗くのが怖くて下を向いて振り返る。
自分の足元が見える。
ドアに手をかける。
ヒヤッとした冷たい感触。
その手は微かに震えている。
唾を呑み込む。
怖がるな琴音。
華と話して、華を喜ばせるんでしょ。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖くない怖くない怖い怖い怖くない怖い怖くない怖い怖くない怖い怖くない怖い怖くない怖い怖くないぃぃ
――――ガラッ
開けた。
一歩、踏み出す。
まだ前が向けない。
また、一歩、一歩一歩。
冷たい空気が流れた。
そして一度目をぎゅっと瞑り、拳も握りしめ、また開いて、
―――――顔を、あげた。
そこには、何があったのか?
目の前の、これは、何……?
顔をあげた私は『無』になる。
恐怖で歪んでいた顔は一瞬で無表情になり、寒気はその光景に消え失せ、視界が眩むように滲み、霞んだ。
恐怖とは違う感情と震えが私に襲いかかる。
「………は、………は…………、はは……は………な………??」
おはよう。
私ね、今日はとっても早く起きれたのよ。
いつもより全然早いでしょう。
あとね、華が最近元気がないから、今日は久しぶりに笑って話したいと思って。
今日はね、華も笑ってくれると思ったんだ…―――――。
目の前にあったのは、
―――――………宙に浮かんだ、否、ぶら下がった、華の姿だった。