あなたのキスで世界は変わる
くちびるを噛んで胸の中のモヤモヤを閉じ込める。
…あの女の首すじには最近つけられたような鮮やかな色のキスマークがあった。
先生は最近あの女を抱いてないの。
…私は知ってる。
先生が死ぬほどあの女が好きなこと。
あの女が先生を好きじゃないこと。
なのに、先生を手放してやらないこと。
…てか隠して来いよ、キスマークぐらい。
見せびらかしたいのかよ。仮にも教師だろ。
ムカつく…!
「だーれだ」
丁度その時、能天気な声と共に私のよく知ってる手の感触が私の嫌う世界を映している残酷な目を塞いでくれた。
わからないわけないでしょ…
「荒田心平先生」
「フルネームかよ」
この手は間違いなく先生の手だ。
間違えるわけない。
それをどかして振り返ると、優しい顔をした先生がそこにはいて。
いつもはムカつくその笑った顔が、
あの女のせいで荒んでいた心を少しずつ静まらせてくれた。
……不思議。
「もう昼休み終わるよ?」
「……いいの、もう帰るから」
「来たばっかりなのに?」
ああ、馬鹿な先生。
あんな女さっさと捨てちゃえばいいのに。