A sweetheart with the difference of age
 屋上。雨はさっきよりも降っていた。
 さほど広くない屋上には、思いの外多くの若者たちが座っていた。
 入口にいては邪魔だろうと座っている若者たちの後ろにたった。
 突然、照明を向けられた。若者たちが一斉にこっちを見た。何が起きたかわからず、立ち尽くしてしまった。
「邪魔~!」
 誰かが怒鳴った。
 え?と、思った瞬間に彼女が僕の手を引っ張った。
 僕はよろけてその場に座り込んだ。
 同時にアナウンスが
「この絵は、ネコゾウが魚をとって大喜びしてるとこです」
と、解説した。
 見ると、さっきの猫が口に魚をくわえている絵が飾られていた。ネコゾウとはこのキャラクターの名前だろう。
「え~、水から飛び出してきたから、びしょ濡れなんだにゃあ~」
と、さらに付け加えた。
「にゃあ~」
と、客席から声があがる。何かの儀式か?
と、彼女が僕をつついた。向こう行くよ、と合図をしてくる。頭を低くしながら、彼女にしたがって進む。
 受け付けみたいなテーブルがあり、そこに入場料百円とあった。こんなのに百円?と思いつつも、百円をいれた。
 彼女が、アナウンスをしている女の子に近づいた。どうやらこの絵を描いたのはその子のようだ。彼女たちが目だけで合図をした。彼女たちなりの挨拶なのだろう。
 ネコゾウの作者は何事もなかったかのように、マイクに向かって喋り始めた。
「続いての絵は…」
と、照明が次の絵を照らし出す。
 その瞬間。
 ざあっ。
と、大きな音とともに、雨が視界を遮った。
 あ~、きたか。と僕は思った。そして慌てて入口に急ごうとした。が、
「この絵はネコゾウが…」
 僕は驚いた。
 この状況でなお、平然と解説を続けているのだ。いや、それだけではない、他の客もほとんど屋上を降りる気配がない。
「にゃあ~」
 客席から声。
 彼女を見ると、彼女もにゃあと叫んでいる。
「次はねぇ、すごいよ!」
と、アナウンス。
 もう絵すら見えていないのに。
 雨は一層強くなる。皆のテンションも高くなる。
 いやいや、さすがにこれは…。
 その時、僕の右手を握っている彼女の手に力がこもった。
 はっと彼女を見る。
 彼女は一生懸命に前を見つめている。雨の先の絵を見つめている。顔も服もビショビショだ。そして、僕の手を、もう一度ぎゅっと握って、小さくにゃあと叫んで、笑った。
 彼女の視線の先を見た。
 雨しか見えない。
 にゃあ~。
 またみんなが叫ぶ。
「にゃあ…。」
 つられて、僕も呟いてしまった。

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