<Rain>


「風邪、ひくよ?」

目を開けた先にいたのは、一人の男子だった。

くるくるとカールした暗いブラウンの髪。

少し長い前髪の間からのぞく、大きな瞳が私を見ている。



「……誰?」

自分の傘を傾けて、私を雨に濡れないようにしてくれている人に対しての第一声は、自分でもびっくりするくらい冷たかった。

「東鷙高の三上裕樹。」


そう言ってニカッと笑って、最後に“よろしくね”と付け足した。


よろしくねって………

会うことなんて、もうないのに。


無視して歩き出すと、後ろから三上くんが叫んだ。

「あんたはー?」



どこか冷めている口調に違和感を感じながらも、立ち止まり振り返った。



「碓井杏実。」


呟くように言った声が、三上くんに聞こえたのかは分からない。


そう告げた後、すぐに前を向いて家に帰った。

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