君だけの星へ

溢れだしたもの



『運命が甘いものにせよ、苦いものにせよ、好ましい糧として役立てよう。』


          ヘルマン・ヘッセ



   ◇ ◇ ◇



どういうことですか。


そうわたしが言葉を発する前に、お手洗いから桐生さんが戻ってきた。

変わらない態度で彼と話をする早瀬さんを、疑問の残る頭でぼんやりと見つめる。

そんなわたしに首をかしげたのは、桐生さんだった。



「望月、どうかしたか?」

「えっ、や、なんでもないです」

「……そうか?」



釈然としない様子で眉を寄せた彼は、そう言って冷めたコーヒーを口に運んだ。

わたしは意味もなく、カップに入った紅茶をティースプーンでかき混ぜていて。



『……あいつの心は、4年前に置き去りのままなんだ』



早瀬さん、さっきの言葉は、どういう意味ですか?

答えの出ない問いが、ぐるぐると頭の中をめぐっている。

そのうち知るときが来る、と早瀬さんが話したそれは、つまり今はまだ、訊いてはいけないということで。

いやむしろ、早瀬さんの態度から察すると『訊かないでほしい』と言う方が正しいのかもしれない。
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