君だけの星へ
「……かなわないなぁ」



ふっと嘆息した早瀬さんが、そう言って小さく笑った。

いつだったか、桐生さんにも言われたせりふとかぶって、わたしは思わず首をかしげる。



「いや、いい意味でだよ。世莉ちゃんみたいな純粋な子は、世の中のことをいろいろ知ってる大人の俺には、少し眩しいだけ」

「………」



よく、わからないけど。

それなら桐生さんも、あのときそんなふうに感じていたのだろうか。


ぼんやりとしていたわたしを現実に引き戻したのは、早瀬さんがコーヒーカップをソーサーへと置いた音だった。



「それじゃあ、教えてあげる。智の、過去のこと」

「……過去、」

「うん」



わたしの呟きに、ゆっくりうなずいた彼。

そしてまた、口を開いた。
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