君だけの星へ
自宅に帰ってきたわたしは、かばんだけ放り出して、真っ先に自分のベッドへと身体を沈めた。



『……今でも、』

『今でもね。目を閉じて、思い浮かぶふたりは、いっつもしあわせそうに笑ってる』



カフェで席を立つ間際、そう言って目を伏せた早瀬さんの表情が、頭から離れない。

そして、思い出すのは、いつかの桐生さんの言葉。



『もし彦星が、他の誰かを見つけていないんだとしたら……それはきっと、ただ彦星が弱虫なだけだ。またその誰かと離れることになるのがこわくて、結局前に進むことができないんだろ』



彼は不変を疑うのに、不変を望む。

その心の奧に閉じこめたものは、きっと、わたしなんかじゃ計り知れなくて。



「……ッ、き、りゅうさん、桐生さん……っ」



小さく声をもらしながら、ぐ、ときつく、シーツを握りしめた。


……どうしよう、どうしよう。

ああ、わたしは。

きっとわたしはあの人に、恋をしてはいけなかった。

今はいない彼女と彼との絆に、わたしなんかが介入してはいけなかった。


なのに、その話を聞いても──どうしたって、この想いは消えてくれそうにない。

それどころかもっと、今まで以上に、“愛しい”という感情がわきあがってくる。

彼を想う気持ちで、胸が張り裂けそうになる。



『桐生さん、星が好きなんですか?』

『……ああ、好きだよ』



あなたは一体どんな気持ちで、夜空を見上げてたの。
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